※彼らについてはoriginal頁ankを最初に御覧下さい。





いつだって そうだったのに。





癒えない傷





「まだ、治らないのか」
共に過ごす様になって、どれ程経過しただろうか。其れすらも判らない程の日々の果てに、不意に彼がそう呟いた。
「……… ?」
既に寝る準備を整えて、今まさに毛布にくるまろうとしていた瞬間だった。
無言で彼に疑問を投げ掛けると、同じ様に無言で彼は己の右眼を指差した。
……… 嗚呼。

着替える間ずっと庇っていた眼帯に、気付いたのだろうか。

出逢った時からずっと、身につけ続けていた眼帯。内に潜むのは、癒える事のない『傷』。
別に、全然気にしていなかった事だ。
こんな事、彼も気にしていないと思っていた。なのに、彼は気付いてくれた。
「明日にでも、医者に行くか?」
ぎしり。とベットに腰掛けて彼は少女を窺った。
「………」
ふる。
小さく。小さく少女は首を横に振った。
完全に忘れていた訳ではないけれど。此れはその様な類のモノではない。其れは彼に云うべき事ではなかったし、云うつもりだって更々ないのだ。だから、無言で拒否する。
「… そうか」
無理強いはせず、其れだけを聞いて彼は立ち上がった。
「あ …」
だが彼の長いコートを掴むと、しかし言葉に詰まって少女は俯いた。そんな彼女に文句を云うでもなく、急かすでもなく、彼はただ静かに次の言葉が生まれるのを待った。
「あの …い、今まで、ずっと、 そうだったんだ」
零れ落ち始めた言葉を聞いて、彼は再びベットに腰を下ろした。
「き、…傷は、放っておくもので… 其れは、自然と消えたり… 違うモノになったり… 此れみたいに残り続けたり… したから。其れが…当然だと、思ってたんだ」
「………」
あの、闇に閉ざされた研究所。
ニンゲンの姿をした獣。
次々と消えては変わる、其の場に居た、者達。
そんな中で傷の1つや2つ、気にしている余裕なんて なかったのだ。
「だから、その… 嬉しかった…」
俯いて、小さく呟き続ける彼女の言葉を、ただ聞いていた男の表情が、初めて変わった。
「そんなヒト、居なかったから。でも、今は居てくれる。其れが… 嬉しくて……」
其の言葉が終わるや否や。男が静かに動いた。
真っ直ぐに少女を見詰め、既に色素の抜け落ちた柔らかい髪を撫でる。そして

眼帯で隠されたままの右眼に 優しく口付けた。

呆然と、少女は彼を見詰めた。
「いつか癒えるといいな…」
そして優しく抱き締める。
其の温かさに、彼の優しさに、少女は唯一光を見る左眼に涙を浮かべて彼の背中に手を回した。










嗚呼。 この傷が癒える日を、彼と迎える事が出来るといい。








あいうえおで46の言葉_『癒えない傷』
偶発性ディスコード「ank」より未だ名前のない2人を。
淡々とした中に、きっちりラブ。この2人を描く(書く)上で、其れは外せない要素です(イエ別に其れはこの2人に限った事ではない気がします。多いにします)
話中、最も気になるのは矢張り着替えでしょう。
… っ駄目! 彼の目の前で着替えては!(?!)
ついウッカリ普通に当然の様に書いてしまいました。
ヤバイヤバイヤバイかなりヤバイデスヨ…!!

_20040522UP_






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