xxx君で変わっていく10のお題 お借りしました → リライト ―――――――――――――――――――――――――――――― 1 君と居ると笑わずにいられない(鳴ライ) 「一言いいですか」 唐突に発せられた言葉に一瞬面食らう。彼に話し掛けられることなど余程少ない。 「何かな?」 「何故、笑っておられるのですか…」 やや俯き加減に、怪訝そうな表情を浮かべ、ライドウが消え入りそうな声で尋ねる。 一瞬質問の意味を上手く掴めず、眼を丸くしてから鳴海は腕を組んだ。ほんの僅かだけ考えてフと思い当たり、今度こそ鳴海は破顔した。ますますライドウの表情の怪訝さが増してゆく。 「意外と、不器用なんだなって思ってさ」 今度はライドウが一瞬眼を丸くした。だが視線が注がれる視線に気づいて、眉を寄せた。 手元には情報収集の為に寄せ集めた此処数日の新聞と、其れを切る為の鋏。だが其の細やかな作業が不得手なのか、奇妙に細かく刻まれた新聞の切れ端が机の廻りには錯乱している。 「… 苦手なんです」 頬に僅かな朱を浮かべてそっぽを向くライドウに、鳴海がまた笑った。 新しい発見をした子供みたいなカオで。 気づかなかった彼の一面が見れる度に零れる笑み。 嗚呼 可愛いなあ。 不器用だといい。可愛い。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 2 傍らで眠る、暖かな存在(ゴウ←ライ) 朝目覚めると、傍には温かい体温があった。 いつもより少し起きるのが遅いだけでも、其れは遠慮なくのしかかってきた。 たまには鞭の様にしなる尾で叩かれたり、鋭い爪で引っ掻かれたりもした。 だけど。 「ゴウト」 もう居ないのだ。 ともに居た年月はそんなに長いとは云えなかった。しかしこれ程までに自分の心を占めるものだとは、今までの自分にはなかったことだ。 もう、あの君は居ない。 声は聞こえども、あの暖かな体温は戻らない。 こんなに哀しい気持ちは 昔の自分では得られなかった。 物哀しい空虚さが其処には生まれている。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 3 見た目よりもずっと強い(鳴ライ) 「帰りません」 今まで見たことのない程の強い意志を湛えて、自分を見詰める瞳。 マントに隠された身体は驚くくらい華奢だと云うのに、幾体もの悪魔を封魔し使役し、不釣合いな日本刀を握り締めて佇む姿。いつも別行動を取っているせいか、こんなにも剥き出しにされた戦闘態勢に驚くと同時に、何故か胸が痛い。 こんなにも年端もゆかぬ少年が葛葉14代目を襲名した? 初めて彼と顔を合わせた時と同じ驚愕が去来する。 驚く程の白い、陶磁器の様な外見などには酷く似つかわしくない、重責。 このコは、俺が想像するよりも強いのだ。 「有難う… ライドウ。 一緒に 行こう」 貴方に見せていない自分だって在るのだから。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 4 甘えたいのに甘えられない・甘えていいですか(鳴ライ) 物心つく前から自分の生きてゆく姿勢は決まっていたようなものだ。 行く行くはデビルサマナー葛葉ライドウ14代目を襲名し、帝都の為、生きてゆくのだと。 其れしかないのだと。 普通ではない。其れは甘えでしかない。甘えなど許される訳もない。 道は ひとつ。 なのに どうして貴方は。 うまく表情がつくれず、歪んでしまうのが自分でも痛い程判る。 泣きたいのか、哀しいのか、苦しいのか、痛いのか。まるで全然判らない。これではまるで、自分のことなのに他人の様じゃないか。 「おいで、伊呂波」 優しく、もう今は亡くした名前で呼んで、彼は微笑んだ。 嗚呼 甘えていいですか。 何処かにある隙間から彼は入り込んで来たらしい。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 5 君と居ると、弱くなっていくようだ(業ライ) 随分と丸くなったものだ。と自嘲する。 今までのヤツらとは格が違うと一目置いたつもりが、どうやら方向がズレて来た様にも思える。 自嘲気味に笑って、ゴウトは先刻大きな一戦に決着をつけた、14人目の己が名を告ぐ少年を見上げる。 消滅した存在の最期の場所を、ひたすらに真っ直ぐ見詰める其の表情は無に等しく、だが溢れる感情は年齢相当にひたむきで素直だ。 「伊呂波」 薄い肩に飛び乗って呼びかけると、少年は小さく頷く。 まだ彼は幼い。至らないところも多々ある。 だが彼は 強いのだ。 何処が、とは言及し難い。安易で安直な云い方をするのならば、こころと云おう。 其れに比べて随分と自分は脆弱になったものだと、其の度自嘲する。 勘違いでもなんでもなく、君と居ると、弱くなっていくようだ。 ゴウトは14代目に超甘いってこと。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 6 君と居る時の自分(?×ライ) 何と云うか 乱される。 と云うのが1番しっくりくると思う。 ほんの些細な仕草や、言葉や、雰囲気、ただ其れだけでどうして上手く切り返せなくなるのだろう。自分で自分がよく判らない。 勝ち負け関係なく丸め込まれるのは、時間にしてみれば一瞬で、酷く圧倒的だ。 何がそうさせるのだろう。 何にそう弱いのだろう。 判らない。 判らないだけに、どう対処していいのか判らずに、本当の自分を曝け出してしまうのだ。 こんなのは、ライドウとして正しくないと判っているのに。 貴方と居る時の自分は 伊呂波と云う 小さな存在に成り下がる。 そんな自分に戸惑うがいいさ。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 7 孤独だった頃の傷跡(雷ライ) 表情にはまったく出ていないが、戸惑いながら傷跡に触れる手は本人が予想しているよりも遥かに率直に其の想いを伝えた。 外見は瓜二つと云っても過言ではない。 だがくっきりと其れと判る顔の傷跡に、彼は酷く戸惑ったらしい。 「同じ顔に傷があるのが不気味か?」 「、いや… そうじゃないんです。ただ…」 上手く言葉に出来ないのは、今までの彼の環境がそうさせているのか。 同じ存在として其れは容易く理解出来る行動だった。 恐らく彼は自分と同じ顔にある傷、ただそんな理由からではなく、其の傷が生まれた時の痛み、辛さを思っているのだろう。表情の乏しい彼は彼なりに、素直に感じ取れる雰囲気で其れを相手に伝えていた。 本人が、其れに気づいているかどうかは別ではあるが。 「我と同じなら判ると思うが」 「――――――――――――」 「これは、誰にも干渉されなかった故の跡だと思え」 其れは、孤独だった頃の傷跡。 云われ、彼は初めて其れと判る程表情を歪めた。 また其れもひとつの傷跡であるとは気づかずに。 自分だからこそ判る痛みがある。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 8 傍に居ることを怖がらないで(鳴ライ) びくり。と、大仰な反応を示してライドウは身体を強張らせた。 何でそんなに? ライドウと、この探偵事務所で一緒に過ごすことになって数日。幾ら見知らぬ同士だったとは云え、ともにヤタガラスからの指示を受けてのことだ。何故そんな反応を返されるかが判らない。 敵意を抱かれていると云うのとは、また違う。 云うなれば … 怖れ? 誰かと一緒に暮らすと云うこと。自分以外の誰かが四六時中ともに居ると云うこと。其れを極端に怖れている様な、一種神経質ささえ感じさせる彼の反応が、其れでも嫌悪と取れないのは、其の瞬間の彼の表情があったからだ。 気づかれた? 傷ついた? まるで叱られた子供の様に彼は傷ついた眼で自分を見る。 これでは気落ちすることも、ましてや怒ることも、詰ることなど出来る訳もない。 大丈夫だから。 傍に居ることを 怖れないで。 ちょっと対人恐怖症? まるで小さなこども。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 9 涙が流せるということ(鳴→ライ) 多分、お互いに 涙 と云うものを見せたことのない関係だと思う。 鳴海はしみじみと事務所の片隅で雑務をこなしてゆく少年の背中を見ながらぼんやりと考えた。 そもそも、彼には「涙」と云うものと、「泣く」と云う行動が直結出来ない。似合わないとかではなく、一種の超人めいたイメェジを抱かせる姿勢を彼は貫いている様にみえるのだ。其れは無意識か、故意的かは窺えないけれど。 まるで僅かばかりの意思を持たされただけのマネキンだ。 彼は生きている。17歳ならばもっと、声を上げて笑ったり、全身で怒ったり、のびのびと楽しんだり、泣いて哀しんだりするものだ。そもそも涙と云うのは感情を表す上で大きな役割を果たすもの。彼は其の片鱗すらも見せようとはしない。 でも。 もしも一条でも其れを垣間見ることが出来たのならば。 彼はきっと、もっと自分に近づく。 「一体何ですか… さっきから」 怪訝な表情でライドウがこちらを振り返った。否が応でも感じ取った気配に、我慢出来なくなったのだろうか。 「いや? 深い意味はない。ただ君を見ていた」 「……… ?」 其れでも最近は随分「にんげん」らしくなったきた様にも見える。 あと少し。 「もっといろんな君が見たいと思う」 もっとたくさんのきみにあいたいんだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 10 もう、君が居ないといられない 戻 |