どうして

こんなことに。



xxx 過ち



「ひ…、ッイ」
身体の内側から抉られる 感覚。
湧き出る痛みと、快楽と、形容出来ない この感情とが、綯い交ぜになって自分を攻め立てるのが判る。だがまともな思考感覚が、目の前の己と瓜二つの男に無理矢理に断ち切られてから、一体どれだけ経ったのか。
もう其れすらも判らない。
「や、あ あぁ、」
まともな言葉ひとつ生まれない。

何故?

どうして

こんなことに?

「――――――――――――、ッ!」
唐突に酷く深く挿入されて、一瞬呼吸すらも奪われる。
苦しくて苦しくて、でも其の奥深くでは今まで経験したことのない快感にただ溺れて、どうしたらいいのか判らない。
「14代目」
にやり。
と継承数だけの名称で自分を呼んでおきながら、さりとて自分とて同じであるクセに、この男は。
埋もれた意識の奥で毒づいた、其れすらも感じ取ったのか、彼は更に嬉しそうに笑うと深く、深く口づけてくる。
「ん…、ふぁ」
このくちびるも、舌も、頬も、目も鼻も眉も、何もかも、何もかもが同じだと云う存在なのに、なのに彼はどうして其の肉体を繋げようと考えついたのか。



嗚呼 何故。



絡まる舌が、ようやく開放される。だが結合した部分はまだ更に自分を責め続け、どうにかすると果ててしまいそうになる。
「ライドウ」
同じ声で同じ名前を呼んで、彼は自分を見詰めた。
闇の眼。
同じ眼。
だが 矢張り どうしてか何処か違う。
もうどちらのものか判らないほどに唾液で濡れそぼった其の舌で、彼が不意に頬を舐め上げた。
そう其処はただひとつ異なる、彼にだけ存在する傷の在る、まさに其の場所。ライドウにはない、ただ陶磁器の様に白く沈殿した頬を彼はねっとりと舐めた。
「な…、にを」
整わぬ切れきれの呼吸の間から問うと、雷堂は再び口づける。
「ん…」
「   … 、 では、ないだろう」
「――――――… ?」
はあ、と開放されたくちで呼吸をすると、自分を組み敷く男を見詰めた。
「似ている。其れは紛うことなき事実であろう、だが、



 其れでも 同じではないのだろうな」



「………、 雷 堂?」
「そうだ。だが我は貴様ではない。貴様とは似ているが非なるもの。同じではなく異なるもの」
「――――――――――――」
何処となく泣きそうでいて切羽詰った様な、切ない言葉に聞こえた。
彼は泣いてはいない。
其れは判っている。
ただ真っ直ぐに、闇の眼をもって自分を見詰めている。
だがどうしてか。其の言葉を聴いた自分の方こそが泣いてしまいそうな気さえする。



「だから、だから ―――――― お前を抱いた」



眼を見開く。
何でそんなことを。
この有得ない邂逅を、この赦し難い繋がりを、そう結論づけるのですか。
「判っているのだろう」
そう云い捨て、彼はまた再び激しく責め始めた。
「あ、あ…ッ、ん、くぅ、」
熱に浮かされる様な快感の中で、其れでも矢張り認めざるを得ないと感じた。
「ら、雷・堂 …、」


これは 罪だ。

これは 歪んだ行為だ。

其れは 判っている。

其れを 認めている。


しかし 其れは過ちではないと、
貴方は
(僕は)

云う
(思う)

の ですね。





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*やっぱこう、認めたくないような、
でも認めたいような。
何処まで信じて疑えばいいのか判らずただ重なりたい。みたいな。
淋しいかんじ。

20060325