なんて 脆い。 と 思った。 xxx虚ろのもの ひとめにはとても判り難く、其れでいて考えの読めぬ本人の表情からは伺い難いが、一度捲ってしまえばあとは容易い。と、鳴海は思う。 嗚呼なんて脆い子なんだろうね、君は。 今までたったひとつのことだけに囚われ続けた、清く、気高く、幼い君。 見据えることは ひとつ。 目指すものすら ひとつ。 其れ以外は ひとつとして必要ではなく 求めることすらもしなかった、哀れな君。 がんじがらめにされた其の意思は固く解れず、しかし其れだからこそ、瓦解も容易。 今までにないものを 与えれば 其れでこと足りる。 たとえば 愛情。 たとえば 言葉。 たとえば 仕草。 そう、 たとえば … 快楽。 「あ、は…ぁ、あ」 涙に揺れる闇の眼は何を見てるの? まるで大人になるのを、なりかけて止めてしまった中途半端なそのこころとからだが己の下で言葉にならない悲鳴を上げている。 鳴海はからだは熱に浮かされながらも、妙に冷静になっている意識で其れを見下ろす。 何度か繋がっているにも関わらず、彼はいつもいつも初めての経験の様に心細げに、そして躊躇いを、惧れを曝け出して悲痛な声を上げるのだ。 身悶え、恐らく今まで誰にも見せたことのない涙を、快楽の果ての無意識の中で生理的に流す。 なんて 脆い。 まるで白磁の様に白く透けるからだ。 散る 朱。 ゆるやかに動く肢体が滑らかで猥ら。 上気する鼓動と吐息につられて口唇を寄せて重ね、無理矢理に舌を絡ませる。 「ライドウ」 「 …、ん、ァ…ッ」 きつく責める動きを幾分か緩め、呼吸を落ち着かせる。 「な …るみ、さ…?」 だがまだまだ快楽と苦しさの狭間に揺れて慣れないまま、ゆるゆると視線を合わせた。 ひそやかに眉を寄せられた其の表情には怪訝さだけが熱におかされている。しかし次の瞬間には視線は背けられた。 「は… やく終わらせて、下さい…」 中途半端に高められたこの状態が辛いのか。 仄かに紅く染まった目尻に浮かんだ涙が、また一条静かに頬を伝って落ちる。 「こんな … こと」 何の意味があるのか。 初めて彼を抱き敷いたのち、ぽつりと呟いた言葉。 其れと同じ言葉が繰り返される前に鳴海が口を開く。 「あのね、ライドウ」 耳元にそっと呟き、しかしからだは裏腹に再び深く彼を穿ちながら、其の果てに行き着こうとする。 「、あ、あ…ッ、やあ… ぁ」 いきなりからだを突き抜けた衝撃をやりすごせずに、ライドウは妙に上擦った悲鳴を上げて鳴海の背中にきつく爪をたてた。 「君が欲しいんだよ」 其れだけなんだよ。 熱くじっとりとした吐息の合間に鳴海は囁いた。聞いていなくてもいい。ただ口にしたくて呟いた。 耳に届いたのだろうか。 翻弄されながらも、半分呑み込まれた涙目で、ライドウが鳴海を再び見詰めた。 「、も… ぅ」 うまく言葉が発することすらも出来ずに、だが其れでもライドウは何とか喘ぎ以外の言葉を形作ろうと口唇を動かす。其れを拾おうと鳴海がライドウの口元に耳を寄せた。 「ん、 ぁ… なたの、 …の、 でしょ …ぅ」 何か見えない衝撃が自分を猛烈に猛打していった。 鳴海は眼を見張りライドウの眼を見返そうとしたが、彼は既に其れを見越したのか、其れとも快楽に埋没したのか眉根を寄せて瞼を閉じてしまっていた。 瓦解させるのは 本当に 簡単だ。 今までにないものを 与えれば 其れでこと足りる。 たとえば 快楽。 たとえば 仕草。 たとえば 言葉。 そして、 たとえば … 愛情。 嗚呼なんて愛おしい子なんだろうね、君は。 ―――――――――――――――――――――――――――――― *矢ッ張り、鳴海ハラグロはゆずれないものらしいですよ。 あんなにヘタレなのに…(偏見) 何故…! 20060420 戻 |