「キスしていい?」 「馬鹿ですか」 *** 接吻 (おとなは やさしい うそをつく いきものです) 「其の云い方は冷たい… 淋しい」 よよよ。 とヘタな芝居じみた動きで鳴海は机に突っ伏した。 そんな(傍目にも充分過ぎるほど可笑しい)鳴海を一瞥し、ライドウはひとつ小さく溜息をつく。 時々このひとが判らない。 不真面目かと思えば急に真剣に真面目な意見をくちに出したりするし、だるそうに昼寝をしていたかと思えば吃驚するくらい迅速に行動を起し、且つ其れが丁寧で正確だったりするのだ。 もう随分と長い間寝食をともにしてきたが、正直未だに彼が掴めない。 彼自身が。 彼の行動自体が。 「いいじゃんライドウのけちー」 大の大人が何を云うか。 そもそもけちとか云う問題ではない。 常識から云って、自分達の関係は、「異常」 だ。 なのに。 罪悪感も背徳感も 存在していないかのように 彼は。 「ライドウ」 もやもやとした考えに囚われて、不意に名前を呼ばれるまで彼がすぐ傍にまで来ていることにライドウは気づかなかった。 「しょちょ… 、!」 やわらかい たいおん 振り返りざまのライドウの細い身体をゆるやかに束縛し、鳴海は口唇を塞ぐ。 「――――――――――――」 最初はただ触れるだけ。 だがそっと口唇を舐められ、軽く甘噛みされて僅かに開いた間から進入した舌が、いつもライドウを掻き回す。 「、ん、 …っぁ は」 からだのおくがしびれてくる。 彼との キスは。 彼とのキスは、とても気持ちがいいのだと最近気づいた。 罪悪感や背徳の感情しかなかった自分を、溶かすように彼はよくライドウにキスをする。 許し、癒し、傍に居てくれるのだと思わせる。 なぜだろう? 彼のキスは甘くて、優しくて、あたたかい。 「ん、 …は、あ」 ようやく開放されてライドウはぼうっとしたまま鳴海の胸に寄り添った。 そんなライドウの背中を鳴海がぽんぽん、とまるであやすように叩く。 「一体… 何なんですか…」 「んんー? ライドウに触れたかっただけだよ?」 「…………… 鳴海さん?」 「本当だってば」 まだ怪訝そうな表情を崩さないライドウに、鳴海は少し眉根を寄せて困った様に微笑んだ。 「ライドウに触れたかっただけだって」 「本気ですか」 「本気ですとも」 「馬鹿云ってないで仕事して下さい、仕事」 「酷いっ」 よよよ。 と再び崩れ落ちる鳴海を見詰めながら、ライドウは何となく満たされている自分に気づく。 (おとなは やさしい うそをつく いきものです) 触れたかったのは 自分なのではないかと たった今 判った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 与え与えられ、そしてふたり満たされてゆく。 ……… ラヴラヴ? 20070612 戻 |