クラリ ユラリ と ユラめいて、 ユカヌ ユカヌ と トドめいて、 しかして イタイ ツライ と ナゲくなど、 嗚呼 なんと 烏滸がましいこと *** 愚 フラリ、 と身体のバランスを失いかけたのに気づいて、グ。と立て直す。 油断していた訳ではない。 侮っていた訳でも決してない。 ない。 が、現にこうして予想以上の痛手を受けてフラつく自分が居ることの現実。 「気をしっかり持て」 足元で、いつもより焦った感のするゴウトの声。 其れに引き摺られたかのように覚醒する意識。 「よいか。相手は有利故の余裕と隙を持っているぞ。其処を突くんだ」 コクリ。 素直に頷く。 土壇場の一瞬などとゆうものは、必ず訪れる。 まさに倒れかけんとした自分に敵はアッサリと引っ掛かった。 「甘い」 自嘲気味に、しかし皮肉った笑みとともに嘲ったのは、ゴウトか。自分か。 仕掛けておいた罠が敵を捕らえ、瞬時にして相手の焦りが絶頂にまで到達する。其の時生じた隙のなんと大きいことか。盛大に嘲笑してやりたい気持ちを抑えて透き通った刃を閃かす。 カタは、一瞬にしてついた。 今までの時間は一体何だったのかと思わせる程だ。 しかし。 塵となって消失した痕跡を見届けることなくライドウは己の意に反して重力に引き摺られた。 身体が鉛のように重い。 ―――――――――――― 抜かった。 つい気が緩んだ。 地面についた腰はずっしりと重く、もう自分の意思では立てそうにもない。 管の仲魔を呼ぶ気力すらない。 「………、」 其れでも最悪死ぬことはないだろう。 霞がかった意識で、冷静にライドウは分析している。 確かに深手ではあるが、直結しているものはない。 と、思う。 今のライドウには、このたゆたうような意識のゆれが酷く心地よく感じられ、拒絶する術を持たなかった。 ………。 「ライドウ!」 ハ。 呼ばれ、一瞬にして意識が覚醒する。 呼ばれたことに驚いたのではなく、呼んだ声の主に驚いて、ライドウは見開いた眼で相手をまじまじと凝視した。 「ライドウ、大丈夫なのか?!」 「………、 な なんで」 乾ききった咥内では上手く言葉が発せない。 「なんで。 … なるみさん」 「ゴウトが呼びに来てくれたんだ。嗚呼、近くに居て良かった」 もうゴウトはライドウが瀕死だ瀕死だ。死んだらどうする、なんて脅すから間に合わなかったどうしようかと思ったじゃない。と鳴海はまだ言葉を続ける。其の言葉をライドウは唖然としたまま聞いていた。 「取り敢えず応急処置はしたけど、このまま此処に居るのは良くない。早く事務所に帰らないと」 そう云って鳴海は有無を云わせずライドウを抱き上げた。 世にゆう、「お姫様抱っこ」。 「――――――――――――!!」 焦ったライドウはもがいた。しかし、 「大人しくしてなさい」 ビッシ。 と珍しく一喝されてライドウは言葉に詰まった。呆然とした視界に、お目付け役の黒猫の姿。 言葉もなくただ其の姿を見詰めると、ゴウトは澄んだ綺麗な緑眼を細めると 「自業自得だと思え。これは罰だ」 と小さく呟いた。 畜生。 胸中で呟いてライドウは、自分を楽々と抱き上げて歩き出した鳴海を見上げた。 「も、申し訳ありません」 意外な言葉に鳴海はちょっと驚いた表情を浮かべた。しかし次にはもういつもの笑顔になり、 「じゃあ今度からは無理はしないように」 と、釘を刺す。 「………、」 「どうしても無理なら、もっともっと頼っていいんだよ」 「――――――――――――」 そんな。 甘え など。 「ライドウはいつもそうだからね。そんなことは決して偉いこととは云わない。頼れるひとが居るのに、頼らないのは、愚かなことだよ。君には其れが出来る。許されている」 クラリ ユラリ と ユラめいて、 ユカヌ ユカヌ と トドめいて、 しかして イタイ ツライ と ナゲくなど、 嗚呼 なんと 烏滸がましいこと 一体どちらが正しくて間違っているのだろう。 自分に課せられた使命には、どちらがよりよいのだろう。 「深く考えなくていいんじゃない」 にこにこ、と微笑みながら鳴海は言葉を続ける。 「結果良ければすべてよしって云うでしょ」 微笑む鳴海と、其れを黙って肯定的に聞き続けるゴウトを交互に見て、ライドウはそっと視線を落とした。 嗚呼 なんと 烏滸がましいこと 其の区別の なんと つきがたいこと ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― なにいいたかったんだろう。 (鳴ライでお姫抱っこ書きたかっただけ)(これこそ愚か) 20070711 戻 |