寒い。なんて云うから。



xxx 寒さの熱



輝く太陽を恨めしくも思った夏も過ぎ、心地よい秋はあっという間に通り行き、身体の芯から凍えるような冬が今年もまた近づいてきて、捜査で駆け回る身を切るような風が撫でていく。
「ううう、寒いっ」
立ち並ぶ雑居ビルとビルを吹き抜けた北風に、大袈裟なくらい首をすくめて須田が寒がる。
厚い雲が閉ざした空からは太陽の恩恵を受けられず、辺りは日中だと云うのにぼんやりと薄暗い。聞き込みで駆け回って、今日は普段は入り込まない路地にまで足を踏み入れていた。
其処は人通りも少なく、故に更に閑散とした雰囲気が見た目にも気温を下げて見せた。
ぐす、と鼻をならして空を見上げたのは今朝流れた天気のニュースでも思い出しているのだろう。

『今日は今年一番の冷え込みになるでしょう』

ついに来た。と誰もが思ったに違いない一言。本格的に冬が到来するのだ。
「黒木もニュース見た? 今年一番の寒さだってさ」
予想通りの考えだったらしい。胸元で手をこすりながら、須田が問う。
「ええ」
「当たってるよね、すごい寒い」
しきりに手をこすりあわせながら、須田が呟く。よく見れば頬も鼻先もうっすらと赤みを帯びている。冷えているのだろう。
しかし黒木は須田が云う程寒いとは思わない。確かに時折吹き抜ける風は冷たいが、そこまで体温を削られる程ではないと思う。もしかして須田と自分とでは外気温の感じ方が違うのか。
「そんなに寒いですか」
「寒いよ」
マフラーとか手袋とか全然出してないよ、何処にしまったんだっけ。と呟く須田は本気で寒いらしい。先を歩く肩先から見える頬はどれだけ冷えているのか。
ふと思い立って、そっと頬に触れてみると、吃驚するくらい須田は反応を示した。
「………っっ!!!?!?」
立ち止まって振り返った須田は、先刻よりも頬を真っ赤に染め上げ、ただ口をぱくぱくとさせるだけで言葉がすぐには出て来ないようだった。
「何っ、黒木の手、冷たすぎっ!」

え、

確かに触れた須田の頬は予想に反して温かく感じたが、よもや己の手がそんなに冷えていたとは思わず、黒木は吃驚した。
「そう… ですか?」
「そうだよ」
まじまじと見詰める右手を、須田がぎゅっと両手で握る。
「うわ、何これ、どうしてこんなに冷えてるの。信じられない」
握り締めてくる須田の手は、其れでも確かにほのかな温かさを持っていた。
「もうこれ感覚ないんじゃないの?」
「ありますよ」
「ほんと?」
この温度で… と呟きながらも須田は両手で包み込んだままの黒木の手を離さない。まるで、なけなしの温度を与えるかのように。
ゆっくりと須田が黒木の手を撫でた。
「ほんとに寒くないんだ…」
苦笑する。
自分が寒いから、相手もそうだと思っていたのだろう。
単純で、でも底辺にある緩い温かさに嬉しくなる。
「須田チョウ、寒いですか」
「先刻からそう云ってるだろ…」
僅かに浮かべた苦笑。少し、拗ねている風にも見えなくもない。
己の右手を握り締める両手を、今度はこちらから握り返す。一瞬ぽかん・とした幼い表情を浮かべる須田に、ちょっとした悪戯心が生まれる。ただ自分を見詰める須田の両手をそっと持ち上げると、口元に寄せ、吐息を掛ける。

「―――――――――!」

慌てて手を離そうとするが、遅い。
がっちりと握り締めた手は解けず、そしてようやく其処で今居る場所を思い出した須田が辺りをきょろきょろと見渡す。
「黒木…っ!」
頬に宿った赤さは寒さからではない。一気に身体に宿った熱のせいだ。
足掻く須田の手は開放されないまま。うう、と困り果てて眉を下げて潤んだ眼で見上げてくるのは、わざとなのかどうなのか。無自覚に自分を煽るのが、巧過ぎる。
「も…っ 離せよ黒木…!」
「寒いんでしょう」
「寒いよ! でもこれは困るんだよ!」
正直過ぎる。
正直過ぎるから、今は一時退きましょう。

「自分も、結構冷えてきました」
そうとは思っていないことを、呟いてみる。すると須田は予想した通りに便乗した。
「じゃあ早く署に戻ってコーヒーでも飲もうよ!」
必死に訴える姿が滑稽なくらいに見えて、でも黒木は未だ手を離さず、ずい・と須田に身を乗り出した。
「須田チョウが、暖めてくれるなら、離します」
「へ」
「今晩、行きます」
「ッ?!」
カッと染まる頬は、多分今日の寒さをもう何処かへ吹き飛ばしただろう。
小さく微笑んで、頬へとくちびるを寄せる。
「いいでしょう?」
「………っ ず、ずる、い…!」
涙ぐみながらも睨む須田が、堪らなく黒木を煽る。
もうどう云ったところで逃げる術などないのだ。恐らく須田も薄々気づいている。其れに気づいて黒木はそっと掠めるように触れるだけのくちづけを須田に与えた。
「そうですか?」
「そうだよ…っ」
「仕方ないでしょう」





煽ったのは、貴方です。
(冷えた身体を暖めるには、人肌が一番いいと云いますし)





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*ちょっと御無沙汰してました、原作・黒×須、です。

久々にイケイケ強気な黒木です。
あれ… 何をどうしてこうなった? でも久々にラブい黒須が書けて幸せでした。

ぶっちゃけ部屋が寒いんです。夏生まれにはキツイ季節です(かといって夏に強い訳でもなく)

2009.12.13