黒←須 …?





夜の帳が降りる。安積はあれから随分と作業がはかどったらしく、定時を僅かに過ぎたところで帰宅してしまった。昼過ぎまでの不調がまるで嘘のようだった・と須田はまとめた書類を並べて思う。
当直だから慌てることはなかったが、思いの他時間の掛かった書類をまとめ、のびをした須田に黒木が声を掛けた。
「須田チョウ」
「ん?」
「あの、先刻のことなんですが」
先刻?
一瞬何を云われたのか判らずに須田はきょとんとした表情を浮かべた。しかし出先から戻った時の安積との会話についてだろうと思いついて須田は小さく苦笑した。

まさか、言及されるとは。

少しは彼も自分を気にしてくれているだろうかと思ってしまう。
「チョウさんの溜息を解消してたんだよ」
「は?」
予想通り呆気に取られた表情を浮かべる黒木に、須田はつい吹き出してしまった。
「はは、ごめん。なんていうか、チョウさんも詰まっちゃうことくらいあるんだよ。ま、それは俺もだけどね」
流石に詳しい内情は判らない。窺い知るだけでもそれはくちに出すには憚られ、結局有耶無耶なことしか云えない須田に、黒木はほんの僅か眉を顰めた。
「?」
おそらく他のひとには気づかれないレベルでのその反応に気づいて、須田は内心首を傾げた。
確かに曖昧な返答をしたけれど、元々黒木はあまりそういった他人の内情に踏み入れるような言動はしない。彼は賢く聡いにんげんだ。云われずとも事情を察してくれると思っていた。
だからこそ、まさか先刻の安積との遣り取りを突っ込まれるとは思わなかったし、今の言動も不可解に思えた。
……… 黒木?
疑問を感じながらも、どう反応を返せばいいのか判らず、須田は混乱する。其処へ、
「… 須田チョウは、」
「……… ?」



「係長と… 本当に、仲が良いんですね」



「――――――――――」
不意に呟かれた言葉に呆然としてしまう。
そんな須田に気づいて黒木は顔を俯かせ、彼にしては珍しく音を立てて椅子を引いて立ち上がる。
「すいません、気にしないでください」
そう云い残し、須田が引き留める言葉を模索するよりも早く「お先に失礼します」と、部屋から立ち去ってしまう。須田はただその後姿を見送ることしか出来なかった。







――――――――――――――――――――――――――――――







*おまけと云いつつ何と云う消化不良っぷり。

そしてもしかして初の須田視点の黒←須片想い?(正しくは黒(→)←須という両片想い嫉妬)
嫉妬話って楽しいですよね。それと同じくらいじれったくも感じますが(苦笑) 片想い時の嫉妬は黒→須にしろ、黒←須にしろ擦れ違いレベルでの嫉妬。そして其処に一役買うのは速水か安積なのは譲れない妄想。
今度は両想いになった時の嫉妬とか書いてみたいです。

2011.05.31