泣けない貴方に(我慢しなくていいから)










xxx速水×安積



疲れていた。今までになく。
それは体力的にも、…精神的にも。
だからこそ逢いたくなかった。
今逢ってしまったら、多分抑えが効かなくなることは判っていたのだ。擦り減らした神経に無理をして、何とかその姿すらも視界に入れずに久し振りに家へと戻ってみれば、其処には

「速水。遅かったな」

珍しく腕を振るったのか、出来立ての惣菜を手にして振り向いた安積の姿があった。



疲弊した身体での車の運転を止め、公共の交通機関での道のりは予想していたよりも時間が掛かってしまっていた。部屋へと続く階段が酷く億劫で、扉を開けたら最後、倒れてしまうかも・とまで思っていた速水はただ呆然と安積の顔を見詰めた。
「お前、…なにして」
「何って、疲れきった隊長殿を労わってやろうと馳せ参じたんじゃないか。さあ靴を脱いで、御飯にしよう」
「何で、」
「何で?」
速水の言葉に、安積は小さく溜息をついて手にしていた皿をテーブルに置くと、未だ玄関に立ち尽くす速水へと歩み寄る。
室内からの光を背にして向かってくる安積の表情は近づいてくるにつれ、逆光の影で不明瞭になっていく。ただそれを見ているだけの速水の正面に立つ。
「判らないとでも思っていたか?」
「……… あ、」
「まさか気づいていないとでも?」
「………」
「お前が今どんな状態で、何を望んでいて、何を欲しているのかぐらい、俺にはお見通しなんだよ」
いつもの自分を模した云い方に、一瞬呆気に取られる。恐らく安積は意図的そうしているらしいことにも気づいた。
僅かに傾いだ顔の表情がようやく速水の視界に入る。
「安積、」
「だからお前は俺には隠さなくていい」
優しく微笑む安積の顔が、何よりも温かく速水の心に浸透していく。
込み上げる感情を、それでも押し留めようとする速水を、安積は静かに抱き締めた。
「なあ速水」
久し振りに感じる人の暖かい体温は心地よく速水に伝わり、更にそれを留めるように安積は彼の背中を優しく撫でる。



「曝け出すことは、恥ずべきことじゃない」



柔らかい声音に、塞き止められていた感情とともに涙が溢れた。





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*なけばらくになるっていうでしょ、なけばいいよ。

以前に速水と黒木って泣きそうにないな… って思いまして(『きれいな涙』)、泣かせてみました(え…)
流石に彼らが泣くほどの原因を自分には考えつきませんでしたが(凹)、とにかくその状況に立たされた二人に対峙した安積と須田は共通して『包み込んで泣かす』かな… と。

そして敢えて顔を見ない安積。それは多分自分が見られたくないから見ない。

2012.01.31