キス10題 前半5題  (KISS KISS KISS)




1. 気付かないふり(黒×須)



思う存分啼かせて、交わって、貪って、喰らい尽くして。
ぼろぼろに泣いた涙の跡を拭うと、荒い息をつきながらも微笑んでくれる須田に、微笑み返す。
「大丈夫ですか?」
「ん、… だと、思う」
僅かに掠れた声で答えるのに苦笑してしまう。嗚呼だから貴方は優しすぎると云うのです。
こめかみ、頬、くちびるに次々とキスして、柔らかい身体をシーツごと抱き締める。
「随分無理させてしまってすいません。ゆっくり、寝て下さい」
「うん…」
ゆるゆると目蓋が閉じられるのを見て、自分も視界を閉ざす。しかし行為の後は身体の中の熱をいつも持て余す。目蓋を閉じるが、眠りが訪れるまではいつも少し時間が掛かる。今まではただずっと須田を見詰めるだけだったが、いつの日かまどろんだ夜に行われた秘め事に気づいてからは、意識して目蓋を降ろすようにしていた。
不意に眠っている筈の須田が目を開けた。明らかに眠りから覚めた後の動きではなく、ただ閉じていた目蓋を開けた。まさにそんな動きだった。自分のすぐ間近にある黒木をじっと見詰める。
いつも何を考えているのだろうと思う。
だが聞かない。ただ気づかないフリをする。
須田がそうしていたように、黒木も眠ったフリをしているのだ。

滑稽な程の騙し合い。
だがそれは、愛おしさの裏返し。

そ、とくちびるに触れる温度。
くちづけと云うにはささやかすぎる触れ合い。
しかしいつも自分から動くことが出来ない須田からの、数少ない与えられる行為。
そして須田はおずおずと黒木に身を寄せると、今度こそ目蓋を降ろして眠りへと落ちた。静かな寝息を聞きながら、黒木は再び目を開き、同じくらいささやかなくちづけを須田に返した。



――――――――――――――――――――――――――――――



2. フライング(黒→須)



多分、貴方は覚えていないんでしょう。
そもそも事故としかいいようのないあの事に、あの事実に、自分以外気づいている人はいない。
(あんな、将棋倒しみたいことが現実に起きて)
(更に漫画みたいに偶然触れたくちびるはほんの一瞬で)
(でも確かにあの時、)



(自分は貴方に、初めて触れた気がしたんです)



――――――――――――――――――――――――――――――



3. もっと好きになる(黒×須)



言葉以上に行動で気持ちを示す彼は、想像以上にストレートに感情を伝えてくる。
今までこんなに正面からの想いを感じたことがないから、戸惑う反面、正直嬉しくもある自分がいることに気づく。
「須田チョウ」
いつもと変わらない呼び掛け。
でもそれに含まれる熱を察知出来るようになったのは、ごく最近だ。
籠められる熱とは裏腹に感情の読めない表情の彼を見詰め、微笑む。それが引き金になり、そっとくちづけを交わす。触れた唇は、柔らかさと同時に抗い難い熱を伴う。



その熱に引き摺られて、もっと彼を好きになりそうな自分にも、最近気づいた。



――――――――――――――――――――――――――――――



4. 2度目のキス(黒×須)



正直、彼との初めてのキスのことを、よく覚えていない。

唐突だったし、余りにも現実として感じてなかった・と云うのが正しいのかも知れない。ただその後、呆然と見詰めた黒木の顔が、今まで見たことがない表情だったことだけがやけに鮮明だった。



2度目のキスは、馬鹿みたいに鮮明に覚えてる。

永遠とも思えるくらいに長く、熱く、そして気持ちよかったからだ。
身体に燻る熱を持て余しながら、生理的に浮かんでしまった涙でぼやけた視界で見た黒木は、今まで見たことがないくらい嬉しそうな表情で、何だかそれに酷く照れた。



――――――――――――――――――――――――――――――



5. いつまでも慣れない(黒×須)



強張っているのが、雰囲気で判る。ただ頬に触れただけの手にすら、大きく反応が返る。
ほんとうに、いつまでも慣れないなんて。
呆れと少しの不安、そして初々しさを感じて微笑ましく思う気持ちが混在する。
しかし触れることを止めるつもりはない。ようやく想いが通じて、こうやって触れることが出来た権利を、どうして捨てることが出来るだろう。
ゆっくりとくちびるを重ねる。
スーツを握る手に僅かにちからが籠もったのが判った。
最初は触れるだけ。
徐々に角度を変えて、ただ温度を確かめる。そして閉じられたままのくちびるを舐める。その頃には強張った身体からも僅かにちからが抜けていて、うっすらとくちびるが開かれる。
「ふ、」
零れ落ちる吐息に誘われるように、深くくちづけて、舌を侵入させる。逃げる舌を絡ませ、同時に逃げ腰になる身体も引き寄せてますます深く咥内を犯してゆく。
「…ん、ぁ、… ぁ、」
少しずつ混じり始める快感の声音に、身体が熱くなる。
確かにいつまでも慣れない。でも、
「ん、ん、…… ふ、 …ぅ」



それでも必死に快感にしがみつくように、ぎこちなく絡み返し始める舌の動きに、黒木は心中に湧き上がる喜びを感じた。



――――――――――――――――――――――――――――――





*黒×須 キス10編から前半戦5題です。
いいですよね、キスネタ。
大好きです。しかし10題は心持ち多かったので、分けさせて頂きますスイマセン…。

後半5題は、これ以上にハッチャケます(たぶん)

こちらから、お借りしました。 …酸性キャンディー

2009.08.20