ぼくらは うつつに いきるいきもの



xxx ゆめうつつ



視界が歪んだ。
でも意識はやけにクリアで、いったいこれはどうゆうことなんだろうと首を傾げた。



ゆめかな?



閉ざされた視界の中で意識は明確で、しかし感覚は視界と同様閉ざされてしまった。



やっぱり ゆめ?



誰とはなしに問い掛ける疑問に答えてくれるひとは居ない。
其れでも焦りが存在しないのは、これが慣れた世界だからだろうか。多分今まで何度かあった気がする。此処で大切なのは所詮『気がする』だけで、しっかりと記憶にないところがまた微妙。
ぼんやりと、朔耶は想いを馳せる。



こんなことになる前は 何をしてたんだったろう?



ようやく記憶を掘り返そうとする。
覚えているのは気が強く優しく脆いおんなのこ、明るくて楽しくてでも時々ハッとさせられるおとこ、
そして、



澄んだ強い瞳の奥に隠しきれない悔恨を潜ませる おとこ。





………
嗚呼 戻らないといけない?





………
「…い! おい! しっかりしないか!」
突然耳に滑り込んだのは、最後に掘り返した記憶に居たおとこ。銀色とも灰色ともつかぬ髪、端正な顔、しかし其の眼に浮かぶ感情は、



「……… さな、だ せんぱい?」
「眼が覚めたか」
掠れた声が自分を呼んだことで初めて安堵したのか、真田は少し表情を緩めた。其の背後から顔を覗かせているのは順平とゆかり。其の顔を認めたところで自分は倒れていて、真田に抱き起こされた状態でいることに気づいた。
何でこんなことに?
「うおお、ようやく起きたぜ!」
「もー! 心配したんだよ!」
口々に発せられる言葉に曖昧に微笑んでみせると、真田の表情がまた変わった。
「おまえ、無理してるんじゃないだろうな」
「え… ?」
「いきなり倒れるなんてどうかしてるぞ」
云われ、どうして自分がこんな状態になっているのかを聞かされた。
タルタロス攻略中、階層を上がる階段で、いきなり自分は体勢を崩したらしい。単なる踏み外しかと思えば体勢を整える動きすらも見られず、其のまま床に後頭部を直撃しかねない寸でのところで真田が咄嗟に抱きとめたときには自分に意識はなかった。
そうゆうことらしい。
「何だよー、貧血? おまえ、食細そうだもんなあ」
傍らにしゃがんで、順平がにかりと笑いながら云う。
「てゆーかちゃんとしたもの食べてる?」
其れを引き継いでゆかりが問い掛ける。
「あー… うん。ちゃんと食べてるよ。ただ、こうゆうの、時々あった …気がするから。大丈夫」
「時々? … 気がする?」
ひとり、鋭い目つきのままで真田は朔耶を見詰めた。
「よくある感覚でした。ゆめみたいな、ほんとみたいな、不思議な感覚。覚えはあるんですけど、記憶に薄くて」
「うわ、何ソレ! キモっ?!」
「キモいゆうんじゃないわよ、馬鹿順平」
小競り合うふたりを尻目に、真田は何度目か知れぬ溜息をついた。
「で。今はもう大丈夫なのか」
「はい。すいません」
ゆっくりを立ち上がるのを見届けて、真田は順平とゆかりに脱出口を探しに行かせる。
「… すいません」
重ねて謝る朔耶に、真田は小さく微笑んでくしゃりと髪をかきまぜた。
「もういい。ただ、もう心配掛けるような真似だけはしてくれるな。心臓に悪い」
「はい」
「たとえゆめのように感じようと、今生きるのは現(うつつ)だ。意識を失おうと生きるお前は此処に居て、そして心配するおれたちが居る。ただ其れだけだ。

だが1番大事なことだ。

其れを忘れるんじゃない」



突き刺さる視線。
鋭い切っ先。しかしでも其れは痛くはなかった。
確かな感覚で、










自分を此処に捕らえた。










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*「しっかりして!」な主人公が此処に…!
でもほんと、こんなコですウチのは。

真田先輩頑張って(ひとごと)

20050808