生まれたこの気持ちは 何処に埋めよう。



xxx 感情共鳴以心伝心。



「空が遠いねー」
吸い込まれそうだ。
と、まるで自身が遠い眼をしながら金田一耕助は呟いた。
空。
遠い空。突き抜ける蒼。
細く脆弱ともとれる身体が、嗚呼、溶けてゆきそうじゃないか。

其の眼は今 何を見てるの?

「なに情けないかおしてんの」

軽く眉を下げて、金田一耕助は苦笑した。数歩先へ進んでいた身体ごとこちらへ振り返り、「ん?」と小首を傾げる。

「君を想ってた」
「ぼくを」
一瞬眼を丸くして、真正面から向き合う。しかし次の瞬間には小さく吹き出した。
「どうしたんだい…、 一体、急に」
いつものはにかんだ様な、いささか照れたような笑みを浮かべて其れを隠す様に、金田一耕助は忙しくがりがりと頭を掻いた。



「君が…」



「君が想うことについて考えてた」



話して欲しいと思う。君を、君の口から。
眼に映ること、耳にすること、口にすること、触れ、感じ取ること。何をどう捉え、考え、想うのか、知りたい。

君に触れたい。

君が想うのは何? 君が想うのは 誰?

呆気に取られた表情は、彼の実年齢を更に不可解なものにさせ、幼く、何だかとても可笑しい。
「其れは… また難しいことを」
ぱちぱちと幾度か瞬きを繰返し、一瞬口を開きかける。しかし場を繕う言葉は発せられることなく呑み込まれ、再び彼は口を閉ざした。其のまま暫し眉根を顰めて考え込む。
「あのね…」
切り出し、しかし小さく溜息を落とす。
「きっとぼくも他のひとに其れを求めている」
「――――――」
何か云おうとするのを金田一耕助が、そっととどめた。緩く浮かべられた微笑に、言葉を呑み込んでしまう。
「多分其れは君の求めることとは違うのは、判ってる。でも幾つかの事件がそうであった様に、結局はすべてが手探りで、でも最期には僅かのあとから憶測をして其れを述べるんだ。きっと其れは君がぼくに対して想うことと似ているはずだよ」
自嘲気味に微笑み、金田一耕助は眼を伏せた。
「ぼくが君の想うことを知れない様に、きっと君もまたぼくの想うことを知れないだろう。でも」



「僅かの痕跡から、憶測することぐらいはきっと出来るだろう」



眼を見張る。
そんな姿を認めてから、金田一耕助は笑った。
「まあでも結局は判らないってことと同じかな。あっはっは」
ひとをくったような、でも妙に照れたような笑いを上げて再び彼は歩き出した。
何となく腑に落ちずに、しかし彼には太刀打ち出来ないと日ごろから感じているせいか、もう何も云わずに彼についてゆく。
「ねえ?」
唐突に振り向き、何やらにこにこと微笑みながら金田一耕助がくちを開いた。
「でも殺意や憎悪とか、よく感じることがあるだろう? 感情は、伝達出来るものだと思う。だから」



「強くそう相手に想えば、其れは通じると思うんだけど?」



判っているのかいないのか。
まるで小悪魔の様な言葉を云い放ち、ひとり満足した表情を浮かべる彼に、もう溜息しか出ない。






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*相手は誰ですか(笑)
もう風間でも修ちゃんでも等々力警部でも磯川警部でもいいんですよ。
だって皆金田一大好きですから!
それでいて金田一は小悪魔っぽいからのらりくらりとかわす訳ですよ。
畜生、可愛いなあ。もう(末期)

20060508